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間取り論再考2:間取りは生きている
独身男性の台所動線分析


 最近「キッチンストーリー」という映画(DVD)をみた。時は一九五0年代。工業化を推し進めるスウェーデンでは、家庭研究所が主婦たちの台所の行動調査を始め、合理的なキッチンプランの開発と、合理的な電化製品の開発によって、スウェーデンの主婦たちの一年間にキッチン周辺を動く距離を「スウェーデン・アフリカ」から「スウェーデン・イタリア」にまで縮めることに成功していた。さらに次の課題として独身男性の台所動線が研究対象とされた。映画では、一種不気味な社会主義国家のように描かれるスウェーデンの状況も面白いが、派遣された調査員と調査対象になったノルウェーの独身老人との関係がより面白かった。台所に置かれた脚立のような監視台にすわっている調査員は、毎日ただ黙々と老人の動線を台所の間取り図上に書き込んでいく。


 現代であれば、被験者にセンサーをつけてもらって、自動的に記録していくのだと思うが、当時は、人的な調査である。調査対象者とは言葉を交わすことが禁じられている。漂う沈黙と気まずい空気。見下ろす中年スウェーデン人と監視されるノルウェーの老人。奇妙なおかしさに満ちたシーンだった。


 映画の結末は記さないが、この「生活学」とでもいうべき領域に徹底的にこだわっているスウェーデンの産業や経済、社会のあり方と、のんびり暮らしてしているノルウェーとの対比が、「暮らしの手帳」国家対「寅さん」国家との対比みたいで、まことに面白いのである。


 生活分析と合理化と間取り



 生活を合理化するということは、生活を分析することから始まる。しかし、生活それ自体は一種の「無意識」のようなもので、自分で分析したり対象化したりされることは極めてまれである。


今日、朝起きて一番最初に何をし、その次に何をして、というようなことは、意識して思い起こさないと、なかなか思い出す機会が無い。そのように思い出す作業をする前に、仕事が始まり、一日の別な時間が始まるからだ。


 間取りを考える際に必要なのは、このような生活動線の意識化と合理化という視点だ。われわれは、朝起きて、夜寝るまでの間に住宅のどこからどこまでを、何回動き、合計してどのくらいの距離を移動しているのか。そのことに無駄や無理は無いのか。「家にいると疲れる」とか「くつろげない家」というのは、このような人々の住居内における動きに合理性や一貫性が無いことに起因していることが多いはずだ。


 変化する家族と変化する部屋の使い方


 一度住宅に住むと、間取りや家具の配置で人々の動きが決まってくる。しかし、住宅には家具やものが徐々に増加し、生活行動に変化が現れてくる。同時に人々は年を重ね、家族の行動様式に変化が現れてくる。


 子供が自分の部屋を持つ必要がない様な幼児の時代には、夫婦の寝室とキッチンと、リビングが中心の生活となり、それらとバスルームやユーティリティが近い二LDKが基本になる。育児と家事が両方並列的に処理されるため、キッチンやユーティリティと子供が遊び寝る空間が近くなければ主婦の動線は大変な量になる。


 子供が二人いて、一人は幼稚園ないし小学生でもう一人が乳児の場合は、親との距離がごく近い乳児と、やや離れる幼稚園児や小学生との距離の微妙な違いが発生し、より広い二LDKか三LDKが基本になる。


 さらに子供が独立空間を求める小学校上級学年から中学以降になると、独立空間としての「子供部屋」が求められ、「家族」の食事や団欒やとしてのリビングと、家族の共有スペースとしてのユーティリティやバスルームなどがそれぞれの独立(プライベート)スペースとの合理的なつながりが求められる。


住宅公団によるNLDK様式


 住宅公団が広めたといわれているN・LDK住宅は戦後の住宅不足時代に、都市化と核家族化が進むことを踏まえて考えられた大量供給型の住居様式で、リビング・ダイニング・キッチンをひとまとめにし、それに独立部屋を加えていく様式の間取りである。旧来の日本家屋が、基本的に「続き間」を基本とする家屋で、「室」を中心として独立部屋の集合体とする洋風住宅と明確な違いを持っていたのに対して、茶の間に変わるLDKを中心に洋風なプライベート空間を加えていった間取りである。


 当初は「引き戸」が多用され、和風のたたずまいを見せていたが、徐々にドアによって区分された独立部屋の要素を強めていった。


 このようにして現在につながるNLDK住宅の基本形が作られていった。その結果日本の住宅の間取りはあまり変化が無い、パターン化された間取りが多くなっていった。四人を標準家族として、三LDKないしは四LDKの個室重視の間取りとして戦後の住宅作りが進んでいったということがいえるだろう。



 少子化・二人家族化・単身増加の時代


 現在は、少子化が進み、四人家族は激減し、札幌市でも世帯全体の一五パーセント程度が四人家族であるに過ぎない。


  現代の標準家族を想定するとすれば二人ないし三人家族で、二人、または二人プラス一という変化のパターンが家族の基本というスタイルだろう。


同時に世代的には、子育てを終えた大量の「二人」暮らしの中高年世帯が増加し、若い世代も「DIkS」スタイルが増加している。さらに今後の出生予測や人口予測によると、いわゆる団塊ジュニアにおいては、いまより一層「少子化」が進行するとされている


 つまり、より「二人」世帯が増加していくと推測されているのである。


二人には使いにくい四人の標準家族用住宅


 このような家族構成が増加していくと従来の「N・LDK」の間取りでは対応できない家族の形式が増加していくということになる。ところがこれまで供給されてきた住宅はほとんどが四人家族用の住宅ばかりである。多くの人が、家族の形態の変化で、いつの間にか、使いにくい住宅が多くなっているという感覚を抱いていて当たり前の状況になっていると言えるだろう。


 特に子供部屋として用意されていた個室が子供の独立などであまり、夫婦別寝室に転用されたりしている。いびきがうるさいとか、生活時間が合わないという理由で、狭い子供部屋に父親が就寝させられていたりする。


 しかし、やがて父親もリタイアして一日中住宅にいたりする生活になるのである。四畳半に閉じ込められていたのではたまったものではないだろう。さらに、高齢化していく暮らしの中では「家族の気配」が感じ取られる間取りが求められる。個室重視主義から、パブリックとプライベートが融合していく間取りが中心になっていく必要がある。


 「夫婦をゆがめる「間取り」」と題して横山彰人氏が出版した本(ピーエイチピーエディターズグループ)には、夫婦の寝室のリフォーム例が掲載されている。二人暮しの寝室の例として、秀逸な提案であると思う。


 高齢者ばかりでなく、若い二人の場合でも、新たな寝室やリビングの間取りが求められるだろう。


 現在の住み方の中で、どのようなスペースがどのように使われているのか。どんな空間がより多く使われているのか。たとえばリビングに求める機能は家族のそれぞれにとってどのようなものなのかについて、話し合うところから、新しい間取りの発想が生まれてくるといえるだろう。


雑誌りプラン掲載原稿(不動産市況アナリスト 志田真郷)
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