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間取り論再考3:内と外のプランニング
戸建て住宅には自慢の庭がある・・


 あなたはマンション派、それとも戸建て派?という問いかけが昔から変わらず繰り返されている。両者の違いはいくつかあるが、最大の違いは、地面に接しているかどうか、庭を持っているかどうかである。


 マイガーデンを利用できること、ガーデンパーティーができることなど、マンションでは一部のルーフバルコニー付き物件以外では難しい生活が戸建てではできる。第二のリビングでもあり、第二のダイニングでもあり、リビングから眺める風景を自分でデザインしてコントロールできる庭があることによって、アウトドアリビングという選択肢が広がり、マンション派には垂涎の「焼肉パーティ」ができる生活を手に入れることができるのである。。


 庭付き戸建て住宅を建てて、マンションに住んでいる友人を呼んで、ガーデンパーティーを開き、いやになるぐらい自慢してやろうという野望を持っている人は多いはずである。いやできるはずである。

 ところがこんな事例がある。


 庭にでるドアがなくなった家のミステリー・・・


 戸建て住宅に住む知り合いが、リタイア後の生活を考えてリフォームを行った。今までと違って住宅にいる時間が長くなるため、より快適な住宅にしたいという動機だ。


 そのリフォームのポイントはがいくつかある。列挙してみる。

◎より暖かくなること。
◎キッチンがより快適で使いやすくなること。

◎住宅内で行う趣味の絵画や書道の作業空間が確保できること。
◎寝室が二人で利用できたり、別就寝ができる環境になること。

ほぼこの四点だったようだ。


 キッチンの快適性の確保のためには、電力利用による安全、クリーンなエネルギーの利用用を基本に、シンクの高さの調整や位置、収納スペースの確保などを行い、リビングに隣接した従来の位置のまま、現代的で快適なキッチンになった。特にレンジは強力で、室内の換気にもおきな威力を発揮するようになった。時々お邪魔したときには、そこでタバコを吸わせてもらっているが、まったくリビングにはタバコ臭が行かず、行儀の悪さを除けば、外に吸いに行くような無様なことは無くなった。


 趣味の空間については、従来の子供部屋を含めて二階の個室を拡張し、就寝もできる多用途なく空間とする事で解決した。また、従来は利用が少なかった一階の和室を読書や作業のできる空間として、大きなすわり机を置き、作家の作業スペースのような部屋にすることで、リビングとの行き来が楽になるとともに、静かな空間が確保できた。


 その結果、就寝スペースは夫婦のどちらかの趣味の時間を基本として二階でも一階でも就寝できるということになり、その課題もクリアされた。


 一番初めに掲げた、より暖かくなることという課題がたどり着いた結論は、壁面と小屋裏に対して充分な断熱材に入れ替えることで基本的には解決されたが、リビングから庭に抜けることができた「掃きだし窓」が廃止され、出窓になった。これに伴い従来の窓も出窓になり、サッシュが高性能のものに変えられた。。


 住まいとしてはとても暖かい快適なものになった。しかし、この結果、この家では庭に出るためには玄関から回らなければ出られない住まいになった。リビングと庭が連続性をもって使えるという建設当初の考え方自体が否定される結果になったのである。


掃きだし型窓廃止の理由


 壁面や屋根部分のような断熱材の入らない窓は、ガラスを二重にしたり場合によっては三重にして断熱性を高める努力をしているが、ガラスやサッシュ自体が熱の伝導性が高いため、冷たい外気温の影響を受けやすく、室内空気を冷やす働きがある。この部分の材料を性能の良いものに変えるだけ随分暖かさが変わる。


 さらに、リフォーム業者の説明では、掃きだし型の窓の場合、冷たいガラス面下部で冷やされた冷気がそのまま床面に流れ、部屋の中に「対流」を起こすので、一種の「風」を感じて寒くなることが考えられるから、暖かさを求めるなら、この掃きだし型窓をやめて腰窓にし、さらに圧迫感を解消するために出窓にしようということになったということである。(掃きだし窓というのは、床面と同じ高さまである大きな窓のこと。)

一箇所出入り口の住宅ばかり・・・


 この事例にとどまらず、最近の戸建て住宅では、リビングから庭に出る掃きだし型窓あるいはガラス製ドアというものが無いケースが圧倒的である。さらに「勝手口」という概念自体が「死語」になりつつあるくらい、キッチンから外に出るドアがなくなっている。


 要するに外部に通ずる開口部は玄関だけというのが最近の戸建ての構造である。


 理由はセキュリティの問題と、「寒さ」対策というものだろう。


 特に、高気密、高断熱というキーワードが最近の北海道住宅の基本コンセプトになっていて、できるだけ開口部を制限して、充分な断熱性能を持った壁面で住宅全体がすっぽり覆われるような住宅が「性能がいい住宅」とされるようになった。熱が奪われるのは開口部で、ドアと窓からの熱損失が最小になるようにしようという考え方だ。ドアも断熱ドアというのがあって熱損失を最小にして寒い玄関をなくそうとしている。また開け閉めの多い開口部があればそれだけ寒くなるという考え方だから余計な出入り口はなくしてしまおうということ。


 このようにして入り口一箇所という住宅がスタンダードな形になりつつある。この結果、庭にでるためには、玄関を回って出るということになっている。


 事例であげたリフォームの場合、当初はリビングと庭の行き来が可能なアウトドアリビングができる住宅として作られたのに、暖かさを追求したリフォームを起こった結果、庭が使いにくくなったのである。


 当初から一箇所出入り口という設計思想で住宅を造っても、庭の位置によっては遠回りの庭というものがそこここに誕生する。


 庭の位置の問題も関係するが庭は眺めるものとなり、第二のリビングや夏の間は第二のダイニングとなることはかなり無理な庭になっていることが多い。庭に水道を設置することはできても、住まいと庭の動線が完全に途切れたものになってしまう。


 これでは、マンション住人に自慢したいガーデンパーティーも随分やりにくいものになってしまう。



戸建て最大のメリット、庭を活かした住宅が欲しい


 北海道の七月から九月までは、我が家の朝食は庭で食べています。というような住まいがあればいいなと常々思っている。あるいは土日の夜は、庭で火を見ながらうまいウィスキーをちびちびやっています。という住まいもいいなあとも思っている。


 そういう生活をするための庭は、建物にうまく隠されるようにできていて、庭が周囲の目から隠せるような構造になっている必要がある。このことを実現しようとすると、様々な庭と住宅の位置関係の設計が必要になるが、行き着くところは、一種のコートハウスのような形状になるはずである。コートハウスとは中庭のある住宅だ。


 長い間そう思っていので、様々な機会に、北海道のハウスメーカーに提案したりしてきたが、残念ながら実験してくれたところはひとつも無かった。どうも性能が大事で、暮らしぶりというソフト面はあまり考えてくれないようなのである。私が変わり者で、すべての住宅ユーザーは寒さからの脱出だけを考えて住まいを求めていると考えているかのようだった。


 そう思っていたら一昨年あたりから大手ハウスメーカーの新商品で、中庭のある住宅が新商品として発表された。北海道仕様では、中庭の雪問題をどうクリアするかという課題があるようだが、注目すべき商品だと思っている。


 時々使い勝手のよさそうな庭の住まいを見つけると、とてもよく記憶に残る。筆者は北海道の住宅は庭のデザインや設計を含めて当初から予算化されてしかるべきだと考えている。庭も一種の自分の空間として活かしていく住まいの発想だ。


 たとえば第一種住居専用地域は、ほとんどが建蔽率四十パーセント。住宅だけを設計していると、六十パーセントの土地を設計の対象からはずしていることになる。住まいにかける予算だけを求めるハウスメーカーには庭の有効活用の提案力は無いのだろうか。


雑誌りプラン掲載原稿(不動産市況アナリスト 志田真郷)
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